東京ジオ鹿大学地理学科事務室

都市の観察の投稿が多いです。Twitterを中心に活動中

JpGU参加報告 ジオパークの報告を聞いて

こんにちはジオ鹿です.

 

現在幕張メッセで開催されている「JpGU(日本地球惑星科学連合大会)」に昨日,参加してきました.

www.jpgu.org

 

その中で,「ジオパーク」に関するセッションを聞いていたのですが,いくつか私の行っている「都市の観察」に生かせそうな話題が出てきたので共有します.

 

 

私が特に関心をもって聞いていた話題がこちら

ジオツアーで「楽しく地球を伝える」ために必要なことは?

西谷香奈さん(グローバルネイチャークラブ)

 

西谷さんは伊豆大島ジオパークでガイドとして活躍されてらっしゃいます.

その中で,ジオツアーのガイドをより面白くするには「TORE理論」に基づく「インタープリテーション」が大事だとお話されており,たった4つのことを守るだけで,ものすごく面白いジオツアーができるので,ジオパークのガイドの皆さんもこれを実践してほしいという話題提供でした.

 

 

用語の整理をしていきましょう

インタープリテーション:『自然公園やミュージアム、その他社会教育の現場で行われる、体験や地域性を重視した、楽しくて意義のある教育的なコミュニケーション』

(引用:一般社団法人日本インタープリテーション協会)

 

 

TORE理論:以下の4つの頭文字をとっています.

Theme :テーマがある

Organized :構成されている

Relative :お客様と関連している

Enjoyable :楽しい

 

TORE理論はコミュニケーション心理学が専門のサム・ハム (Sam H. Ham)によって提唱された理論です.

 

 

TORE理論のそれぞれの項目の意味を深堀りしていきます.

 

Theme :テーマがある

テーマがしっかりしていないと,話がとっ散らかって何を話したいのかが見えてこなくなります.

まずは「テーマ」をしっかりと定めて,そこから話を広げていくことが大切だということです.

 

Organized :構成されている

ジオパーク内の事象をただ単に羅列的に紹介していくのではなく,それぞれの事象が深くかかわりあっていることを意識してメッセージとして構築します.

 

特にここでは「ストーリー性」を意識することであり,特に時系列を追って説明していくことが重要です.

また,人間は4つのことまでしか認識できないことは研究で明らかになっています.そこで,本当に伝えたい要点を4つにまとめていくことが重要です.

 

伊豆大島の場合は,「火山」を中心に,「地形」「水」「気象」「植生」といったものが,同じ空間の中で強く結びつきあって,自然環境を形成していることから,別々に紹介するのではなく,これらの関連性を順序だてて説明していく必要があるそうです.

 

Relative :お客様と関連している

ここでは3つのことに注目する必要があります.

・誰にでも共通するなじみ深い話をする(ユニバーサルコンセプト)

・お客様の頭の中にすでにあることとつながっている.(経験)

・専門用語は使わない.

 

まずは誰にでも共通するなじみ深い話をする(ユニバーサルコンセプト)に関して.

ユニバーサルコンセプトとは,誰にでも共通する話題,日常生活の中の話題です.

例えば,食べることや寝ること,歩くといった,聞き手が共通で認識できる普遍的なものです.

例えば,ユニバーサルコンセプトを活用した「光合成」説明はこのようになります.

「光が木のごはん」

 

人々が共通で認識できる言葉になっているうえで,「木にとっての光合成は,私たちにとってのごはんと同じことなんだ」ということが分かるだけで,理解のスピードは早まります.

 

次に,お客様の頭の中にすでにあることとつながっている(経験)に関して.

お客様がこれまでの経験を踏まえた話と関連付けることによって理解が促進されるということです.

ユニバーサルコンセプトほど普遍的な事柄ではないけれども,ガイドの相手にとってはなじみ深いことと関連付けて説明することの重要性を述べています.

 

このため,お客様の経験とジオパークの説明をうまくつなげるためには,「コミュニケーション」を密にとっていく必要があります.

 

最後に専門用語は使わない

 

専門性が増せば増すほど,お客さんが何がわかっていて何が分からないのかが分からなくなります.

もちろん教育を目的としたガイドでは正確な知識を伝える必要がありますが,多くのお客さんは「観光」を目的としてきているので,ガイドの話を聞いて「楽しい」と思ってもらう必要があります.

専門用語をたくさん用いてしまうと,お客さんが「自分は無知なのかもしれない...難しいからつまらないや」という感情になる可能性があり,本当の魅力が伝わらない可能性があります.

あえて,専門用語を使わず分かりやすく説明することによって,「これはものすごく面白かったから今度調べてみよう」と自ら情報にアクセスするようになる可能性があるよというお話でした.

 

Enjoyable :楽しい

 

お客さんとコミュニケーションをとるにあたっては「双方向・多方向」のコミュニケーションを意識する必要があると西谷さんは述べていました.

 

双方向コミュニケーションといえば「質問すること」になりますが,その中で一番気を付けなければいけないことは「専門性を問う質問をしない」ということです.

 

ポイントは「誰にでもすぐ答えられるような質問を投げかける」ことにあります.

例えば,「なんの鳥の声が聞こえますか?」ではなく,「何種類の鳥の声が聞こえますか?」と聞き方を変えるだけで,お客さんの気持ちが大きくかわります.

 

 

また,「お客さんに何か発見してもらう」ことも重要です.

自らが観察して何かを発見する経験は楽しい思い出につながります.

 

他にも「五感を使って体感してもらう」ことや「イラストや小道具の工夫」などがあげられていました.

 

TORE理論の大事なことをまとめると以下のようになります.

メッセージがあって,
分かりやすく構成されていて,
自分と関係のあることで,
「へぇ~」となることが大事!!

 

 

今回の発表を通して,私は,TORE理論に基づいたインタープリテーションを活用したガイドは,ジオパークのみならず,様々な場面で役に立つと感じました.

特に私が企画している「都市の観察」は予想以上にこの上記のことを意識した新しい都市の見方を知らず知らずのうちに取り組んでいたのだなと感じました.

 

「都市の観察」をTORE理論に置き換える

 私が企画する「都市の観察」では,私自身は案内人というわけではなく,参加者の発見によって成立する企画です.

厳密にいえば,ジオツアーのガイドとは立場は異なりますが,「人を楽しませる」という点でTORE理論を踏まえて考えていけたらよいと思います.

今の段階で感じている都市の観察をTORE理論に置き換えたら以下の通りになると思います.

 

テーマ:冒険家になって都市を記述すること

構成:参加者が感じた内容を主催者の私がストーリーに構築していくこと

経験:「都市」は私たちがいつも暮らしているフィールドであること

楽しさ:「都市空間」から何かを発見して言語化すること.その発見によってストーリーが構築されていく様子が楽しいと感じられること

 

 

私は現在,地理学の人間を中心に「都市の観察」という企画を立てていますが,最終的な目標は「都市を観察する力」を地理学を専攻する人以外にも養ってほしいと考えています.

「都市空間」は多くの人が経験している空間といえますが,観察者がこれまでの経験してきた都市空間によって読み取り方が大きく変わります.(例えば地方出身,東京から出たことがない,建物をものすごく見る,生えている植物に関心を寄せるなど)

 

この違いを多くの人と共有して,参加者の皆さんには「新しい都市を見る視点」をもっていってほしいと考えています.

 

 

TORE理論は何かのジオパークのガイドにとどまらず,人に何か新しいことを広める際に気を付けていきたい考え方だと思います.

私はこれから,TORE理論を意識してイベントを企画し、多くの方に魅力を伝えられたら良いなと考えています.

 

 

【お知らせ】 

6月1日(土)に「都市の観察」のイベントを行うので,興味のある方はぜひご参加ください!イベントの申し込みはTwitterまたは,当ブログのコメント欄まで!