東京ジオ鹿大学地理学科事務室

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地図から何が読み取れるのか?

こんにちは ジオ鹿です.
 
早速ですが,皆さんは「この地図」を見たときにどのようなことを感じますか?
 
 
上の地図は,「人が住んでいない地域」を可視化した地図です.
このように見ると,読者の皆さんは,
「日本には人が住んでいない地域が結構あるな」とか,
「やはり関東平野にはたくさん住んでいるな」
「特に北海道って人が住んでいないところが多いんだな」
と思うかもしれません.
 
 
でも,私は皆さんがこのような感想を抱くことに対してものすごく不思議に感じるのです.
なぜならば,私は一言も「この地図が『日本』である」とは述べていないからです.
 
しかしながら,多くの読者の皆様は上で述べたような判読はできるはずなのです.
読者の皆さんは,
この地図に描かれた形が「日本」であると認知して,
「上にある形が北海道」であることなどを見抜いているわけです.
 
なぜこれができるのかというと,判読している読者の皆さんの脳内には
「日本がどんな形をしているのか」
「上には北海道がある」
といった『地図情報』がきちんと入っているからです.
 
 
一方で,世の中には「地理や地図がものすごく好きな人」というのがいます.
 
特に地理学専攻の人間がこの地図を見たときに読み取れることはものすごくたくさんあります.
 
例えば,
「鉄道が走っているところには人が住んでいるんだな」とか
和歌山県のあたりから四国の中央部にかけての『中央構造線』沿いには人が住んでいないんだな」
とかを読み取ることができるのです.
 
これは,地理学専攻の人は,常にあらゆるものの空間分布を把握しようと試みているため,地理学専攻の人の脳内には,
 
「交通網の位置情報」「地形に関する情報」などの
主題図の読み解きに必要な「地図情報」が脳内にインプットされているのです.
 
 
このように,同じ地図を見た時に読み取れる情報は,
判読者の脳内に含まれる「地図情報の量」に大きく依存するため,
個人差がものすごくあります.
 
 
そこで今回私が開いた「地図データを観察する会」では,以下のことを参加者の皆さんに感じてもらおうと試みました.
 
参加者それぞれ保有する「地図データ量の差」
「地図情報」が脳内に多いひとは地図を見たときにどのような読み解き方をするのか

 

 
参加者同士で大きく異なるこれらの視点を感じてみましょうというのが,今回の企画でした.

 

今回の記事では,その時のワークショップでの様子を皆さんに少しでもご紹介していけたらよいなと感じております.
 

 

◻︎注記なしの地図を判読する

 275きろぼるとさん(@275kV)が作成している「ここどこクイズ」 に掲載されている問題を基に,あっという間にこたえられる人は「どのような地図情報」を用いて解答を導いているのかということに取り組んでみました.
 
 

 第一問

 
引用元:ここどこクイズ第1問目(URL: http://mudagomi.web.fc2.com/all/Kokodoko/N1.html )
 
場所は〇〇〇なのですが(正解は読者の皆さんが考えてみてね)
参加者の皆さんが抱いた判読は以下のとおりです.
 
・都市の西側の南北に新幹線が通っている.
・JR線と私鉄線は別々に分かれている.
・お城があるから城下町だった
都道府県庁があるから都道府県庁所在地
・国立大学が存在している
・地図の南北には河川が流れている

 

ここで注目したいのは以下の発言です.
・都市の西側の南北に新幹線が通っている.
・JR線と私鉄線は別々に分かれている.

 

なぜ,このことがわかるのでしょうか?
地図には凡例が特にありませんが,緑の線が「新幹線」黒い線が「JR線」点線が「私鉄線」であることを解釈しているのです.
これは,地図を読み慣れている人が「きっとこうであろう」という推測によるものなのですが,これも重要な地図の読み取り方の一つになってくるでしょう.
 
 

第2問

 
引用元:ここどこクイズ第2問目(URL: http://mudagomi.web.fc2.com/all/Kokodoko/N2.html  )
 
 
この地図から何が読み取れるだろうか?
・JR線が東西に延びている
・中心駅で私鉄がスイッチバックをしている.
   ⇒都市部でこういう構造を有している鉄道駅は相当少ない.
・中心駅から出ている2つの私鉄を比較すると東側の鉄道のほうが駅間が短い
  ⇒東側の鉄道のほうが西側の鉄道より規模が小さい?
・一番東側の私鉄は道路と重なっている部分が存在している.
  ⇒路面電車か,モノレールだろう
簡易裁判所がある.
  ⇒都道府県庁所在地ではないが,その都道府県の中で規模が大きいほうである.
 
・ベアリング工場がある.
  ⇒自動車関連工場が近くにあるのかな?
・地図の西側に大規模なゴルフ場がみられる
  ⇒丘陵地上が広がっているのではないか?

 

 
 
この地図には,「地形情報」や「周辺にどんな施設があるのか」といった情報は描かれていません.
しかしながら,地理をやっている人は,わずかな情報から推察を行い様々な可能性があることを導き出そうとしているのです.
 
このように,地図には描かれていない空間の広がりを推測する技術というのも地図の読み取りには欠かせません.
 
 
 

第3問引用元:ここどこクイズ第100問目(URL: http://mudagomi.web.fc2.com/all/Kokodoko/N100.html  )

では,この地図を観察してみましょう.

 
なにも情報がないに等しいですが,この情報だけでも「こういうことが読み取れるのではないか?」という意見が出てきました.
 
この地図で一番注目したいのは,「区役所」の存在です.
 
区役所を有しているのは,「東京23区」または政令指定都市特別区です.
 
また,東側に海があり,大きな湾が形成されていることから,
「港町」として古くから栄えているのではないか
という推測を立てることができます.
 
これらの条件を満たす都市は政令指定都市20市の中でも限られてきます
 
次に,道路の情報を重ねてみましょう. 

このようにしてみると,「都市の南西方向には山があるのではないか」という予測を立てることができます.
 
なぜその読み取りができるのかというと,「道の密度」が大きく異なるからです.
区役所周辺道が比較的太く比較的街区が整っていますが,
地図の南西側の道路は道が細くぐねぐねしていることが読み取れます.
 
これらのことから,地図の南西側に市街地は広がっておらず,人が少ないのではないかと推測することができます.
 
また,高速道路が都市の北西側に通っていますが,IC等が設置されていないように見えます.このことから,この都市は,大規模な都市と都市の間にある高速道路の通過点であると推測することができます.
 
最後に注記の情報を追加してみましょう.
 

 
この情報を重ね合わせると参加者の半分以上が「ここがどこであるのか」を理解することができました.
ポイントは「スタジアム」世界遺産あたりになってきます.
 
このように,「ここどこクイズ」では,
「正解を当てること」よりも
「どうやって正解を導いたのか,どのような情報が読み取れるのか」
ということのほうが面白みがあると感じます.

 

□地図には様々な読み取り方が存在する

 このように,「地図」というものを観察したときに,地図に載っている情報だけではなく,その情報から引き出すことができる情報がたくさんあるのです.
地図を見ただけで瞬時に場所がわかってしまう人は,
「その地域の地図情報を知っていたから」
だけではなく,
「こういう特徴を読み取れるから,条件にあう都市はこれだ」
と推測することができるようになるわけです.
 
脳内の地図情報をふやしていくことが,地図には載っていない情報を読み解く力を養う上で非常に重要です.
 
こういった地図情報をインプットしていくためには,「地図を観察すること」はもちろんですが,地図を通して見た世界と現実世界との繋がりを把握することも重要です.
 
地図から読み取ることができる情報を増やすには,
「地図を観察する力」と「現地を観察する力」の両方が重要
になってくるでしょう.
 
 

追記

「地図を観察する力」を高めてみたいと思う方は,こちらの本がおすすめです.
この本は,「空想地図」というものを7歳のときから作成し続けて,現在までに47都道府県300都市を巡った地理人さん(今和泉隆行さん)が執筆された本です.
 
私はこれを読んで,これまで何となく抱いていた「この地図が描かれた都市はこういう街なのかな」という想像を言語化することができるようになり,私のこういった活動に大変役立っている本です.
「地図」から「こういう空間が広がっているかもしれない」という想像を膨らませてみたい方はぜひ読んでみてください!
地図や空間の奥深さを感じると思います.
「地図感覚」から都市を読み解く: 新しい地図の読み方

「地図感覚」から都市を読み解く: 新しい地図の読み方